オリジナルコントのブログ

オリジナルコントの脚本

コント  臨終


通常の行:ボケ 三段下がる行:ツッコミ  娘:サトコ  ()内:動きや擬音の表現


舞台、設定:老人が病室で寝ている。 


登場人物:老人、老人の娘(サトコ)、死神。


   老人(ツッコミ):ああ…とうとう私にも臨終の時が来たか…今まで心の底から
   悔いは無いと思える様な…そんな素晴らしい人生を歩めて本当に良かった…仕事に
   も家族にも友人にも恵まれて…これでもう…いつでも穏やかに行ける…。
死神(ボケ):(ガチャ)よう、じいさん…。(ドアを開け死神が入ってくる)
   (老人):な、なんだあんたは…!?
死神:俺か?…俺は…死神だ。
   (老人):死神?死神だと!?

死神:ああそうだ、信じられるか分からないが…まああんたにしか見れてない訳だから、信じるしか無いか…。
      娘:(コンコン、ガチャ)あら父さん起きたの?(娘が入ってくる)
   (老人):サ、サトコ!!
      娘:なに驚いてるの?さっきお土産で頂いた梨でもむいてあげようかなって
      思って…。
   (老人):い、いや!
      娘:あら、リンゴの方が良かったかしら?
   (老人):いや!そうじゃなくて…おい!そ、そんな事より、こ、こいつが…。
      娘:ん…?
   (老人):お前にはこいつが見えないのか!!??
      娘:え!?何!?誰かいるの!?
   (老人):いるだろうここにっ!!!
      娘:…え?何も見えないけど…。
(死神):無駄だ、俺の姿はあんたにしか見えない。
   (老人):……そ、そうか…サトコ悪かった、父さんちょっと目の錯覚を起こして
   たみたいだ。
      娘:目の錯覚?それはそれで心配よ…?
   (老人):錯覚って言うかあれだ、びっくりさせようと思って嘘ついたんだ、どう
   だおい?驚いたか!?
      娘:え!?ええまあ…色んな意味で…。
   (老人):サトコ…悪いんだがちょっとしばらく一人にしてくれないかな?
      娘:いいけど、本当に大丈夫?
   (老人):ああ、大丈夫だ…。
      娘:分かった…ちょうど家に着替えを取りに行こうかなって思ってたところ
      なの、何かあったら看護婦さん呼んでね。
   (老人):ああ、分かってる。
      娘:それじゃあ。(ガチャ♪ 娘が病室から出ていく)
(死神):人払いご苦労、どうやら俺が死神だって分かって貰えたようだな…。
   (老人):ああ…で、その死神が私に何の用だ?もしかして、私を天国にでも連れ
   ていくつもりか?
(死神):ふっ、地獄って可能性は考えねーのかよじいさん。
   (老人):私は今まで地獄に落ちる様なひどい事をした覚えはない!もし死後の世
   界があるとすれば必ず天国に行くはずだ!!そもそもどうして天使じゃなくて死神
   なんだ!!!
(死神):まあそう焦んなって、別に今すぐあんたを地獄に連れていく為に来たわけじゃない、もちろん天国にもだ。
   (老人):はぁ…良かったぁ…。
(死神):でも、死期が近いことは認識してるよな?
   (老人):…ああ…分かってる…来年の桜はもう見れんだろう…。

(死神):へへ…桜はおろか、じいさんあと3日で死ぬぜ…。
   (老人):何!?あと3日!?
(死神):言わない方が良かったか?
   (老人):そりゃそうだろ!誰が好き好んで自分の死ぬ日を知りたいと思う!!
(死神):まあ、それもそうだな…。
   (老人):家族や知人に最後の別れを伝えられるのは良いが…で貴様はそんな事を
   伝えに来たのか!!
(死神):ああ…。
   (老人):なぜわざわざそんな事を!?
(死神):どうだじいさん、80年近く生きてきて、人生楽しかったか?
   (老人):ああ…私の人生は心の底から1mmも悔いがないと断言出来る…。
(死神):悔いがない?
   (老人):そうだ、仕事は定年まで精一杯勤め上げて来れたし…。
(死神):どんな仕事やって来たんだ?
   (老人):靴下の製造メーカーに新卒から入社し、約50年間営業畑で悔いなく頑
   張ってきた…。

(死神):ほう…。
   (老人):入社後に上司の紹介で妻とも知り合い結婚して、家庭を作り、家を買
   い、家族を養い、友人関係にもとても恵まれてきた…10年前には夢だった東京マ
   ラソンにも出場できた…これ以上何も思い残す事は無い…。

(死神):そうか…。
   (老人):死神とやらよ…私はもういつ死んでもいいと本気で思っている…。
(死神):ふーん…まあそれならそれで良かったじゃねえか…。
   (老人):…私をあの世に連れて行く気がないのならとっとと帰ってくれ!
(死神):…実はな、もう一つあんたに話があって今日は来たんだ…。
   (老人):話?なんだ…?
(死神):今この病院の別の部屋で意識不明の重体で入院している、15才の男の子がいる…。
   (老人):…そうなのか…それは気の毒な事だ…。
(死神):交通事故でこの病院に担ぎ込まれたそうだ…。


   (老人):…そ、そうか…。
(死神):それで実はな、ちょっとした手違いで、その子の魂だけもう既にあの世に行っちまってて…もうこの世から、その子の魂は消えちまってるらしい…。
   (老人):何!?ちょっとした手違いって!?…どうして…そんな事が!?
(死神):それでだ、3日後のあんたの臨終の際に、俺があんたの魂をその男の子の魂の抜けた体の中に移してやる…。 
   (老人):は!?…魂を移す?
(死神):ああ、あんたは3日後からその男の子として第二の人生を生きる…この提案をしに俺は来たんだ…。
   (老人):…あっはっはっはっはっは!…(笑う)死神さん、悪いが私はその提
   案、遠慮させてもらうよ…。
(死神):何っ!?
   (老人):私は先程言った様に、1mmも悔いの無い人生を送ってきた…だからも
   う一度人生をやり直すというお主の提案には乗らん、私の人生は完璧だった…そし
   てあんたの話が本当なら3日後に完成する…死という形でな…。
(死神):それだよ、さっきも言ってたけど、俺があんたを選んだのは、あんたの死期が3日後って所だけじゃない、あんたが自分の人生に悔いが無いって思ってる点だ!
   (老人):それがどうした?素晴らしい事じゃないか。
(死神):ほんとに悔いがなければな…。
   (老人):何…?
(死神):本当に悔いが無いと100%思っているか?
   (老人):思ってるとさっきから言ってるだろ。
(死神):確かあんた奥さんと結婚する前は、誰とも付き合った事なかったよな?(持っている黒い手帳を見る)
   (老人):な、なんでそんな事知ってるんだ!
(死神):まぁ一応神だからな…。
   (老人):で…そ、それがどうした!?
(死神):浮気をした事も無い…つまり、奥さん以外の女を知らない…。
   (老人):だからそれがどうしたって言うんだ!!
(死神):たった一度の人生で、一人の女しか知らないなんてもったいないと思わないか?
   (老人):は!?そんな事はない!私は妻を生涯愛し続けた事に満足している…。
(死神):でも、奥さんと合う前に学生時代は小、中、高、と何度も別の女に一目惚れしてるよな?
   (老人):うるさい!!貴様私の個人情報を調べ過ぎだぞ!!
(死神):それで本当に悔いがないって言えんのかよじいさん…?
   (老人):死神だからって、さっきから口も悪いぞ!
(死神):今昏睡状態の少年、かなりの美形だ。
   (老人):だ、だからなんだ…。
(死神):外見だけなら30代までは確実にモテるタイプだ…。

   (老人):だからそれがなんだと言っとるんだ!
(死神):もしかしたら、アイドルや俳優だって目指せるかもしれない…わかるか?今までのモテない人生を精算して0からやり直せるんだよじいさん!
   (老人):だ、だから、やり直す必要なんて無いと言ってるだろ!!
(死神):…そうか…。
   (老人):用が済んだのならもうとっとと帰ってくれ!!
(死神):少年の親御さんなんだが…実は大手石油関連企業の会長さんでね…。
   (老人):だから説明しなくていい!

(死神):まあ、簡単に言うと超大金持ちのボンボンって事だ。
   (老人):だからなんだ!
(死神):あんたが行けなかった大学や海外への留学、プロスポーツ選手を視野に入れた特別な英才教育だって簡単に出来る。
   (老人):それがどうした!
(死神):東京マラソンどころか世界中でトライアスロンだって出来る…。

   (老人):わしは東京マラソンだけで十分満足している!
(死神):嘘をつくな!
   (老人):嘘じゃない!
(死神):でもそれは今までの話であって、選択肢の中で選べる今ならやってみたいと思わないか?
   (老人):お、思わない…私はもう、自分の人生に…心から満足しているんだ…。
(死神):靴下の営業かなんか知らないけど、あんたが一生をかけた冴えない仕事を精算して、0からやり直せるんだよ!

   (老人):何が冴えない仕事だ!貴様ほんとに無礼だぞ!
(死神):…まぁ今のは済まなかった…確かに靴下の営業は素晴らしい仕事だと思うけど…でも一度でも思わなかったか?この仕事を選んでなかったら、他にどんな仕事をしていたんだろうって…。
   (老人):そんな風に思った事は無い!
(死神):おいおい嘘だろ、あんた3日後には死ぬんだぜ?そろそろ本音で行こうぜ!
   (老人):だから思った事など無いと本音で言っているんだ!
(死神):スポーツ選手、医者、弁護士、政治家、高級官僚、経営者、科学者、まだ15だ、あんたが本気で望めば何にだってなれる…。
   (老人):…何にだって?
(死神):そうだ!それにあんたが希望すれば、これまで生きてきた記憶をそのまま残して移してやることも出来る。
   (老人):…そんな事も出来るのか!?
(死神):ああ出来る、80年間生きて来た無駄な経験を、そっくりそのまま第2の人生で活かせるんだ!
   (老人):無駄とはなんだ!
(死神):ああすまない、でもどうだちょっと迷って来ただろ?
   (老人):そんな事は無い!私は後悔など1mmもしていないのだから!本当に幸
   福な80年間だった!
(死神):ならはっきり言っとくけどな、あんたの人生は大して幸福なんかじゃないんだ、それは幸福度指数で既に出ている!
   (老人):幸福度指数!?
(死神):ああ、詳しくは見せれないが、平均値が100だとすると、まああんたは45くらいだ。
   (老人):平均以下じゃないか!?

(死神):幸福度指数は、例えばやりがいとか、感動とか安心感とか、何かに対しての愛おしいさとか、そう言った人生で湧く全ての幸福な感情を数値化して全て出している。
   (老人):そんな…。
(死神):ちなみにあのガンジーは3000を超える…。
   (老人):さ、3000…!?

(死神):それに比べたらあんたのは、振り幅が小さいっていうかなんていうか…。
   (老人):何だと!?貴様よくも私の人生を…本当に何を言っているか分かってる
   のか!
(死神):あんたは他人の人生を知らないだけで、たいして幸福なんかじゃない…。
   (老人):うるさい!私の人生は確かに幸福だったんだ!!
(死神):だから違うって!あんたが汗水流して外回りしている間に、旨い酒とうまい飯に囲まれて、毎晩飲み明かしてる人間だっているって事だ!

   (老人):うるさい!旨い酒とうまい飯といい女がなんだ!
(死神):いい女は言ってない…。
   (老人):ああそうか…でもそんな物だって食べ続ければいずれ飽きるし、健康に
   だってきっと良くない筈だ!
(死神):あんたが取引先にペコペコ頭下げてる間に、国際問題を解決している人間だっている…。

   (老人):…くっ!
(死神):あんたが気に入った鞄や時計や靴を買おうか悩んでる間に、毎晩カジノで何千万も賭けてる人間だっている…。

   (老人):…私はギャンブルはしない!!
(死神):あんたがつつましやかな温泉旅行を計画している間に、宇宙旅行を計画している人間だっている…。

   (老人):…ぐっ!
(死神):どうだ?考えは変わったか?
   (老人):そんな事言うなよ…。
(死神):…ん?
   (老人):今さら!!そんな事言うなよ!!!
(死神):えっ…!?
   (老人):私の人生はお前が来るまで十分幸せだったんだ!それで良かったじゃ
   ないか!!どうして最後の最後にもっと別の幸せがある、別の人生があったなんて
   教えて来るんだよ!!!
(死神):だから俺はあんたに別の人生を歩ませてやろうとして…。
   (老人):なんでせっかく気持ちよく温泉に浸かってたのに、もっと肩まで浸かっ
   た方が気持ちいいよって、無理やり沈めて浸からそうとする様な事するんだよ!
え…!?
   (老人):そもそも本当に後悔の無い人生を歩んでる人間なんているのか!?皆そ
   れぞれ人生に見切りを付けて、割り切って、必死で自分を納得させて、そうやって
   生きてるんじゃないのか!?どうなんだよ死神!!
(死神):…すまなかった(土下座する)…俺だって別に、無駄にあんたを迷わす気は無かったんだ…ゆるしてくれ…。
   (老人): …なんだ急に?
(死神):実は昏睡状態の少年の魂を見失っちまったのはこの俺なんだよ…。
   (老人):…どういう事だ!?
(死神):交通事故でその少年は意識不明の重体になっちまったんだ…怪我は大した事無かったんだが、意識を失った際に魂がどっかに飛んで行っちまって…今回はたまたまその場所が俺の担当エリアだったってことさ…。

   (老人):そ、そんな事よく起こるのか!?
(死神):いや、100年に一度あるかないからしい…。
   (老人):致命的ミスじゃないか!!
(死神):俺はこれからもあの子の魂を探し続ける、そして必ず見つけ出す!でももう分かるだろ…その前に少年の体が焼かれちまったらおしまいなんだ!だから…あんたにその体に入って少年の魂が戻るまで、体を守ってて欲しいんだ!何年でも何十年でも…どうだ…だめか?
   (老人):……もうわかったよ…そう言う事なら人助けと思って協力してやる…。
(死神):そ、そうか!?ほ、ほんとか!?良かった!ほんとに…本当にありがとう!!(老人の手を取る)
   (老人):まあ、もういいって。
(死神):もし少年の魂が見つかったら、あんたの魂は俺が責任を持って、地獄へ連れてくから!
   (老人):…いやそこは天国だろ!!!




終わり。